Euphorbia fanshawei

photo by Rikus van Veldhuisen


ユーフォルビア ファンシャウェイ(Euphorbia fanshawei)をご紹介します。

アフリカ大陸の中央に位置するザンビア、その北部にあるNtumbachushi Falls(ントゥンバチュシ滝)のすぐ近くでタイプ標本が採取されました。発見当初はこの周辺にのみ自生していると思われていましたが、2007年の調査でお隣のコンゴ民主共和国の南東部Fungurume(フンギュルーム)周辺でも観察されたようです。
上記地図では赤色部分がタイプ標本採種地、黄色が近年観察された場所を表しています。この辺りは非常に悪路で、厳密に調査しきれていないというのが実情でしょう。

iNaturalistにもフンギュルーム付近での観察レコードがあります。こちらはE.fanshaweiで間違いないと思われます。
⇒iNaturalistのレコード

Ntumbachushi Falls採取のisotype標本
Fungurume採取の標本

カブのような塊根から細かな棘を付けた枝を放射状に伸ばす面白い姿のユーフォルビアです。塊根も枝も比較的小さく収まり、水も好むタイプのため比較的育てやすい種だと思います。

自生地では塊根は完全に埋まっており、枝を地を這うように伸ばしています。栽培においても埋めた方が塊根の成長は望めるでしょう。ただ、露出させての栽培でも極端に調子を崩したりはしないようです。

なお、実生ではすぐに枝が出てくるわけではなく、多肉質な葉っぱ10枚以上展開してから、枝を形成し始めます。時間にして2年程でしょうか。
親株とは似ても似つかないその姿はこの幼少期にしか見ることが出来ません。

実生1年ほどの株

姿形が良く似たEuphorbia deciduaがあります。E.fanshaweiと自生地も近く、枝の出し方や塊根の形状など良く似ていますが、4つのポイントで見分けることができます。ただし例外があるため注意が必要です。
蜜腺の色も見分けるポイントになるかもしれませんが、特にE.deciduaは生息地が広く地域による違いがある可能性があるのでここでは触れません。

①落葉(落枝)

E.fanshaweiは極度の低温乾燥の環境に合わない限り、枝は枯れ落ちることはありません。日本の冬であっても動きを止めるだけで枝は枯れ落ちません。(越冬できる環境下という前提)
対してE.deciduaは低温乾燥下ではすぐに反応し、枝を枯れ落ちさせます。そもそも種小名”decidua”が「枯れ落ちる」という意味合いですので、これが特徴とも言えます。

②花の咲く時期・位置

E.fanshaweiは必ず枝の先に花を咲かせます。塊根直上の成長点から花を咲かせることはありません。対してE.deciduaは休眠から目覚めた後、まず花を咲かせその後枝を伸ばします。(※hysteranthousという性質)

E.fanshawei
E.decidua

ただし例外があり、E.deciduaを湿度が高い状態で栽培すると枝に花を咲かせることがあるようです。
E.deciduaはより乾燥した土地に自生しているため、異常な水分条件でそのようなことが起こると推察されています。

つまり、休眠から目覚めた直後に塊根から花を咲かせている場合はE.decidua確定。
ただし枝先に咲いている場合はE.fanshawei確定とはならず、E.deciduaの可能性もあるということです。

枝先と塊根の両方に咲くE.decidua

②塊根の大きさについて
E.fanshaweiの塊根は成株であっても直径10cm程にしかなりませんが、E.deciduaは大きい株では直径26cmを超えるものあるようです。2022年に日本に輸入されてきた株の中には目を見張るような大きさのものもありました。
ただし、E.deciduaも小さいうちはE.fanshaweiと形状も似ていますので、小さい株はこの要素だけでは判別しきれません。

左:E.fanshawei 右:E.decidua

③枝の形状について
栽培環境によって間延びすることがあるので注意が必要です。また、E.deciduaは生息地が広範囲で群間差があるのでその点もご承知ください。

E.fanshawei 節間が短い
E.decidua 節間がやや長い

どちらも枝の全長は12~13cm程ですが、E.fanshaweiは枝の突起の間隔が短いのに対してE.deciduaは突起間隔が長くなりがちです。
その他にもE.fanshaweiの方が、葉や花序の苞葉が小さく花柄も短いようです。全体的にE.fanshaweiの方がコンパクトと言えますね。

以上4点がE.fanshaweiE.deciduaの見分けるポイントです。かなり近い種でありますが、特に①②の違いが決定的で別種とされています。

種小名のfanshaweiはイギリス出身の植物学者Dennys Basil Fanshaweに献名されたものです。
Fanshawe氏はキューガーデンで数年働いた後、1938年にガイアナ、1953年にザンビアへと森林局の職員として赴任し、樹木を中心とした調査を行っています。
彼自身「自分は植物学者や分類学者ではなく、植物採集家である」と常に主張としていたようで、30歳前後には既に25種の新種を発見していたことからも、熱心なフィールドワーカーであったことが伺えます。
しかし単純に植物採集を行っていたわけではなく、木材としての利用価値や土着的な利用方法、方言名など地域に密着した調査を行っていたのが彼の素晴らしいところでしょう。以後のガイアナ・ザンビアの植物学の出版物には、彼の名前が頻繁に引用されていることがそのことの証明です。

ザンビア・マラウイ及びガイアナに自生する20以上の種が彼に献名されています。馴染みのある属ではIpomoea fanshaweiFicus fanshawei(syn.Ficus trigona)が挙げられます。

Dennys Basil Fanshawe(1915-1993)

【学名】
Euphorbia fanshawei L.C.Leach, 1973

【記載情報】
記載者:Leslie (Larry) Charles Leach
原記載書籍:Journal of South African Botany. Kirstenbosch 39巻1号 8ページ~13ページ

【生息地】
ザンビア北東部Ntumbachushi Falls周辺からコンゴ共和国南東部にかけて

【栽培環境】

Ntumbachushi Fallsのデータ

自生地は雨季と乾季に分かれています。乾季は6,7ヶ月ほど続き、この間雨はほとんど降りません。対して雨季は日本の梅雨とまではいきませんがかなりの雨が降ります。気温は比較的穏やかで、年間通して30℃を超える・10℃を下回る日は多くありません。

E.fanshaweiは特に真夏、気温が30℃を超えると明らかに動きが鈍くなります。この時期に大量の水をあげてしまうと、水を吸わないので蒸れてしまう可能性があります。真夏は昼夜の温度差も出来にくいため水やりを出来るだけ控えて、棚下や半日陰など、比較的温度が上がらない場所に置く方が良いと思われます。

冬場は自生地でも最低気温7℃近くまで落ちていますので、ある程度の寒さに耐えることが出来ます。
最低10℃の環境では葉を落とすことは一切なく、むしろゆっくりですが動いている気配すらありました。
恐らく霜の当たらない環境で断水すれば0℃近くでも耐えてくれると思いますが未検証です。5℃確保できれば安心でしょう。

【繁殖方法】
挿し木での繁殖は未確認です。枝挿しは可能かと思いますが、塊根を形成するかは不明です。機会があれば試してみたいと思います。
雌雄同株ですがほとんど自家受粉はしません。雌→雄の順番で咲きますが、シーズン初めなどは雄花のみ開花することがあります。


【Note】
ページ最上部の自生地の写真はRikus van Veldhuisen氏に頂いたものです。
iNaturalistのコンゴ民主共和国南部で観察レコードを彼にもチェックしてもらいましたが、間違いなくE.fanshaweiだろうとのことでした。

恐らく2022年頃に日本に輸入されてきたE.fanshaweiはNtumbachushi Fallsではない場所で採種されたものだと思われます。採取地が記録してあれば貴重な情報となるのに、もったいないです。

恥ずかしながら、この記事を書くまで『コンゴ共和国』『コンゴ民主共和国』の両方の国が存在することを知りませんでした。。。 単純に『コンゴ』と記載するとどちらかわかりませんので、文中では正確に 『コンゴ民主共和国』 と記載しております。

余談ですが、Ntumbachushi Falls周辺は独特の植生を持っているようで、E.williamsoniiは本当にこの滝周辺でしか見られないようです。

手前の柱状の植物がE.williamsonii

【リファレンス】

Global Biodiversity Information Facility (GBIF) https://www.gbif.org/ja/species/3068294
International Plant Names Index (IPNI) https://www.ipni.org/n/346478-1
Plants of the World Online (POWO) https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:346478-1


/Leslie (Larry) Charles Leach(1973) “Euphorbia Species from the Flora Zambesiaca Area” Journal of South African Botany. Kirstenbosch 39(1): 8

/Bally P.R.O.(1962) “Miscellaneous notes on the flora of Tropical East Africa including description of new taxa.” international journal of systematic botany Vol.18 347-351 /International Euphorbia Society(2006) Euphorbia World Vol.2(2) 28
/Herman Schwartz(1983) Euphorbia Journal Vol.Ⅰ 27,71
/Herman Schwartz(1984) Euphorbia Journal Vol.Ⅱ92-94
/National Herbarium & Botanic Garden(2017) “DENNYS FANSHAWE – AN APPRECIATION” Kirkia Vol.19, No.1 117-127
/Peter V. Bruyns(2022) Euphorbia in Southern Africa Volume2 919-921
/P.S.M. Phir(2005) “A checklist of Zambian vascular plants” Southern African Botanical Diversity Network Report No.32

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