Euphorbia etuberculosa

Photo by TOMÁŠ MAZUCH


ユーフォルビア エトゥベルクローサ(Euphorbia etuberculosa)をご紹介します。

“アフリカの角”の雄、ソマリアに自生するユーフォルビアです。採取地のレコードが10件ほどありましたのでそれぞれ調べてみたところ、ハルゲイサ(Hargeisa)とシェーク(Sheikh)を結ぶ周辺が主な自生地のようです。下記地図の赤い部分がそれです。赤い星印はタイプ標本が採取された場所を表しています。

フィールドナンバー”B16074″として残る標本はP.R.O.Bally氏とRonald Melville氏によって1973年に採種されました。
“36km North of Sheikh, Near Behin dulla 560m alt.” この位置データが残されています。

Behin dullaの場所は残念ながら検索しても特定出来ませんでした。SheikhとBerberaを結ぶ道路があり、航空写真で見るとSheikhから38km少しのところに村があるのが見えます。(MAP)
推測になってしまいますが恐らくこの村がBehin dullaではないでしょうか。ここから南に2km程下った道沿いでの採取、と予想します。

この種特有のライムグリーンの肌を持つユーフォルビアです。
表面は細かなワックス(粒子)で覆われており、強光下であればあるほどそのワックスの層が厚くなります。これはE.tulearensisのページで述べた”ワックス”と同じです。
この粒子の発生が抑えられてしまうと緑色に近づいてしまいます。後述の栽培方法を参考にして頂き、成長期間はしっかりと太陽光を当てて育てると良い肌色を維持することが出来ます。

ところどころにある突起は葉が脱落した跡です。種小名”etuberculosa”は、この突起に由来します。
“tuberculosa”は疣(イボ)の意味で葉の脱落跡のことを指しています。語頭の”e”はここでは”without”を意味し、これより先に記載されているE.longetuberculosaの長い突起との対比で命名されたようです。

非常に特徴的なサイアチアを持っており、形状的には旧Monadenium属に近いです。左側に突出しているのが雄花、下側に垂れ下がっているのが雌花です。
雌花も咲き始めは雄花のように突出しており、開花が終わるとこの写真のように垂れ下がります。受粉が可能な期間は突出している1~2日間のみですので、交配される方は注意してください。雌花が垂れ下がり始めるころより雄花の開花が始まります。

なお近縁種としてE.longetuberculosaが挙げられます。非常に近い種で外観もよく似ています。
2種の違いを簡単に判断するポイントは4つ。

  1. E.longetuberculosaの方が葉の付け根の突起が長い。E.etuberculosaも突起になるが比べると短い。
  2. E.etuberculosaの枝は節を形成せず伸びるが、E.longetuberculosaは枝に節を形成する。
  3. E.etuberculosaの苞葉は卵型(Ovata)だが、E.longetuberculosaの苞葉は長細い(Lanceolate)。
  4. E.longetuberculosaの方がやや大きく、主幹は高さ最大8cmになる。E.etuberculosaは最大5cm。

他にも細かな違いがありますが、簡単に判別できそうなところはこのようなところでしょうか。

さていつもは栽培管理はページ下部に書いていますが、難物とされるソマリア産、大事なのでこちらで書きます。

ソマリアは赤道に近いこともあり、”ソマリア産の植物は高温を好む”と書いてあるサイトもあったりします。これにより”夏型”だと思われていることが多いのですが、その先入観は完全に捨ててください。沿岸地域は確かに暑いのですが、少しでも海から離れると一気に環境が変わります。ソマリアのどこに自生しているかで適する環境が大きく変わってくるのです。

こちらは国土地理院から引用した標高地図です。HargeisaとSheikh、標本採取地をマークしました。
これを見ると沿岸からすぐ標高が高くなっていることがお分かりいただけるかと思います。
星印の地点で600m弱ですが、HargeisaやSheikhとなると1000mを優に超えてきます。E.etuberculosaの自生地の大半は1000m前後の標高なのです。

では次にこの辺りの気候を見ていきましょう。

Sheilkhのデータ

最高気温は6月の33℃、年間通して見ても平均最高気温は30℃を下回ることが多いことがわかります。 さらに最低気温も20℃を必ず下回るようです。この環境に自生する植物には日本の夏は暑すぎます。
E.etuberculosaの原記載には”5月~10月に花を咲かせる”と書いてありますので、”比較的”温度が高く雨の多いこの時期に成長するようです。 このことから、誤解を恐れずに書くと、屋外管理であれば”晩春早秋型”、温室管理であれば”春秋型”となるでしょう。温室内では冬でも成長していることがよくありますが。

夏の温度の上がる時期は完全に断水した方が安心です。ただし完全断水の上で強光に当て続けると痛んでしまい、秋口の立ち上がりに枯れてしまうことがあります。やや遮光する・風を送るなどで対策を行ってください。
冬は温度を8度確保し、動きを見ながら少量の水やりをするのが安全です。もう少し低温でも耐えてくれると思いますが未検証です。
夏・冬が終わる頃、自然と動き始めます。用土の乾き具合に注意しながら、やや短い間隔で水をあげます。成長している時期はしっかりと水を与えることが姿良く育てるコツです。


【学名】
Euphorbia etuberculosa P.R.O.Bally & S.Carter, Kew Bull. 40(4): 811 (1985).

【記載情報】
記載者:Peter René Oscar Bally & Susan Carter Holmes
原記載書籍:Kew Bulletin 40巻4号(1985) 811ページ

【生息地】
ソマリア Hargeisa, Sheikh周辺

【栽培環境】

Sheikhのデータ

詳細は前述の通りです。


【繁殖方法】
挿し木での繁殖は未確認です。枝挿しは恐らく可能かと思いますが、基部の膨らみを形成するかは不明です。機会があれば試してみたいと思います。
雌雄同株ですがほぼ自家受粉はしません。雌雄の花がほぼ同時に咲きます。


【Note】
“etuberculosa”は日本では”エチュベルクロ―サ”と読まれることが定着しつつありますが、 ラテン語の発音から見ると、【tu ⇒ トゥ:チュ[tʃ]とは発音しない】ので、“エトゥベルクローサ”がラテン語に近い発音になると思います。

語頭の”e”の由来は調べても中々わからず、色々な方にお聞きしました。
TOMÁŠ MAZUCH氏とPeter V. Bruyns氏の両名より”e”は”ex-, without”の意味だと回答がありました。
ラテン語ではex-の後に子音が来る場合、”x”を省略することがあるようです。
詳細はこちら⇒ https://en.wiktionary.org/wiki/ex-

ソマリアの地名はスペリングが様々に異なるようで、GoogleMapで検索しても引っかからないことが多いようです。
ソマリアの地名検索にはアメリカ地名委員会が提供しているデータベースが役に立ちます。
Gazetteer of Somalia: Names Approved by the United States Board on Geographic Names
ただこれも全てを網羅しているわけではなく、今回特定出来ず仕舞いのものもありました。


【リファレンス】

Global Biodiversity Information Facility (GBIF) https://www.gbif.org/ja/species/3070023
International Plant Names Index (IPNI) https://www.ipni.org/n/906073-1
Plants of the World Online (POWO) https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:906073-1

/Peter René Oscar Bally&Susan Carter (1985) “New Species and Taxonomic Changes in Euphorbia from East and Northeast Tropical Africa and a New Species from Oman” Kew Bulletin, Vol. 40, No. 4 811-812

/Susan Carter (1990) “New Euphorbia Species Related to E. longituberculosa Boiss.” Kew Bulletin, Vol. 45, No. 4 653-659
/Susan Carter, P. R. O. Bally (1988) “The Euphorbias of Somalia (Pt. 1)” British Cactus & Succulent Journal, Vol. 6, No. 3 pp. 61-64
/M. G. Gilbert (1987) “Two New Geophytic Species of Euphorbia with Comments on the Subgeneric Grouping of Its African Members” Kew Bulletin, Vol. 42, No. 1 pp. 231-244

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