ユーフォルビア カンポニー(Euphorbia kamponii)をご紹介します。
マダガスカル南西部に自生するユーフォルビアです。トゥリアラから北に30kmほど、Pachypodium geayiやDidierea madagascariensis、Delonix属やAdansonia属など、比較的大型の樹木系が自生する林にこの種も生きています。
高さ最大3m程に成長する樹状のユーフォルビアです。この写真の株で高さ1m40cmほどです。
この写真ですと枝が乱雑に伸びているように見えると思いますが、規則性を持って成長しています。
この種の魅力は、何といってもその枝の色彩です。通常の枝は、園芸で「シルバーブルー」とも呼ばれる淡い青緑色を呈しています。
しかし、成長期に入ると一変し、成長点付近は黄金色に輝きます。このシルバーブルーとゴールドのコントラストは、息をのむほど美しいものです。成長中の枝の先端は、黄金色の細毛に覆われているため、この鮮やかな色彩が生まれるのです。
成長期が終わると細毛は摩耗・脱落し、枝は緑色に変わります。この時、強い光が当たっていると、体を守るため表面が薄い粉でコーティングさます。これにより緑ではなく青緑色の枝が形成されます。
場所を取る種ですが、出来る限り太陽光が良く当たる場所で育てると美しい姿を維持できるでしょう。
側枝は成長するにつれて、幹から自然に脱落していきます。現地の写真を確認すると、地上から約1.5メートルの高さまでは側枝を落としながら主幹が伸びていき、それより成長が進むと、枝が冠状に広がるようになるようです。
側枝が脱落する際は、簡単にポロリと落ち、幹には枝の跡がきれいに残ります。
トゥリアラ周辺には、いくつかの樹木性ユーフォルビアが自生しています。たとえば、E. fiferenensis、E. famatamboay、E. stenoclada などが挙げられます。しかし、これらの種は、枝の伸ばし方の規則性の違いや枝先の細毛の有無などの理由でE. kamponii との関係性はない、とRauh氏は述べています。
一方、枝先に細毛が生えるという点で近縁と考えられるのが E. alcicornis です。この種も黄金色の細毛を持っていますが、マダガスカル中央のアンタナナリボ(Antananarivo)から北方に自生しており、E. kamponii とは自生地が大きく異なります。また、枝の形状もE. kamponiiとは異なります。
以上より、トゥリアラ周辺では独特の特徴を持っているE.kamponii、Rauh氏は”栽培する価値がある(worthy of cultivation.)”と締めくくっています。
種小名の”kamponii”、これはタイにある巨大な植物園”Nong Nooch Tropical Garden”の園長を務めるKampon Tansacha氏に献名されています。Rauh氏がなぜ遠く離れたタイの彼の名前を引用したかは原記載には記されていませんでした。 Rauh氏は世界中を旅していたので恐らく面識があったのでしょう。
さて記載者であるWerner Rauh氏、ご存じの方も多いかと思いますが彼はレジェンド中のレジェンド。多肉植物における彼の功績は計り知れません。 本ページのような1種を紹介するページではとても彼のことを書ききれませんので、 共同記載者になっているHerman Petignat氏を取り上げてみたいと思います。
E.kamponiiの記載には自生写真や花に関する研究材料をRauh氏に送付し、記載への共同作業を進めたようです。
Petignat氏は1923年、スイスで生まれました。宣教師としてマダガスカルを訪れた彼は、島の魅力に惹かれたのでしょう、後にマダガスカル国籍を取得します。そして国営印刷会社で働いたり林業に従事したりと、マダガスカルでの生活を深めていきました。
農場経営を始めたPetignat氏は、拠点をトゥリアラに移します。そこで彼はトゥリアラ固有の魅力的な植物たちに出会います。しかし、その美しさは森林破壊で危機に瀕していました。失われていく植生を目の当たりにした彼は、採種や挿し木、移植による保護を決意します。Werner Rauh氏を含む様々な植物学者とつながり、情報交換や保全方法の相談を行うように。
Didierea科や樹性Euphorbia科の植物たちに囲まれた空間は、やがて”Antsokay植物園”として結実します。それは単なる植物園ではありません。絶滅の危機に瀕した固有植物たちの避難所であり、Petignat氏の情熱と献身が形となった聖地なのです。
生前の彼のAntsokay植物園での暮らしぶりを紹介している動画がYoutubeにありました。
L’arboretum de Tulear Madagascar.
0:26と5:34の場面、キツネザルが登っている樹、これはまさかE.kamponiiではないでしょうか…!
【学名】
Euphorbia kamponii Rauh & Petignat Brit. Cactus Succ. J. 13: 128 (1995)
【記載情報】
記載者:Werner Rauh & Hermann Petignat
原記載書籍:British Cactus & Succulent Journal, Vol.13, No. 4 (December 1995), pp.128-133 (6 pages)
【生息地】
マダガスカル トゥリアラから北に30km ディディエレア科やバオバブが生える林、草原
【栽培環境】
自生地は最高気温は35℃、最低気温は8℃、乾季と雨季がハッキリとした気候です。月間200mmを超える月もあれば、数mmしか降らないような月が数ヶ月続くこともあります。雨季は熱帯地域と言っていい程湿潤な気候となります。
夏場の管理としては、鉢内が乾けばすぐ水をやる・雨ざらしなどで良いかと思います。真夏の蒸れにだけ注意してください。
冬場はほぼ完全断水で良いですが、株が小さいうちは内部に貯められる水分量が少ないので、表面を軽く湿らせる程度の水やりを月イチぐらいで行うとよいでしょう。最低5℃あれば冬越しは問題ありません。霜を避ければ大きな株は0℃でも越冬可能です。
通年直射で管理することで、この種特有の色味を引き出すことが出来ます。根の状態を見ながら、出来るだけ日光下で管理してください。
【繁殖方法】
挿し木での繁殖が可能です。若い枝は簡単に根付きます。
雌雄異株ですので、種子を得るには両方揃える必要があります。
種鞘も黄色の細毛で厚く覆われているようです。
【Note】
先端の黄金色の細毛ですが色には個体差があるようです。やや白みがかったものから、このページで紹介している黄金色まで。日本国内にはあっても1,2クローンだと思いますので、このページでは黄金色として紹介しております。
棒や棘が大好きだという方はAntsokay植物園に訪れてみてください。私もマダガスカルに行くチャンスがあれば必ず立ち寄りたいと思います。
Nong Nooch Tropical Gardenも訪れる価値のある場所です。検索して恐竜やらショーやらを見ると怪しく見えてしまいますが、間違いなくここはCycasの聖地です。
【リファレンス】
Global Biodiversity Information Facility (GBIF) https://www.gbif.org/ja/species/3066051
International Plant Names Index (IPNI) https://www.ipni.org/n/986234-1
Plants of the World Online (POWO) https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:986234-1
/Werner Rauh (1995) “a remarkable new coralliform species from the region of Toliary (SW-Madagascar)” British Cactus & Succulent Journal, Vol.13, No.4 , pp.128-133
/T. Haevermans & W. L. A. Hetterscheid (2022) “Euphorbiaceae: Euphorbia” THE NEW NATURAL HISTORY OF MADAGASCAR VOLUME 1, pp.645-648